《全 文》

【文献番号】   28080338

所得税更正処分等取消請求控訴事件
東京高等裁判所平成13年(行コ)第118号
平成14年3月20日第20民事部判決

       判   決

控訴人 目黒税務署長 《甲1》
同指定代理人 小池充夫
同 磯野宏
同 鈴木博
同 龍崎博之
被控訴人 《乙1》
上記訴訟代理人弁護士 金子博人

       主   文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

       事   実

第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文1と同旨
第2 事案の概要
 事案の概要は,次のとおり訂正し,又は付加するほかは,原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから,これをここに引用する。
1 原判決6頁3行目の「本件購入土地契約」を「本件購入契約」と改める。
2 原判決16頁2行目の次に行を改めて
「キ 本件各契約を2個の売買契約であると解すると,《A》不動産販売としては,まず,本件購入土地については,
譲受代金と譲渡代金との差額を売却損として処理するか又は被控訴人らに対して贈与若しくは無償の利益供与をしたものとして寄付金処理をしなければならず(法人税法37条7項),
次に,本件譲渡土地については,時価と売買価額との差額を受贈益として益金に算入しなければならないが(同法22条2項),
《A》不動産販売はそのような会計処理をしていない。したがって,本件各契約を2個の契約と解することは,明らかに当事者の意思に反することになる。」
を加え,同11行目の「本件契約等」を「本件取引の各売買契約書」と改める。
3 原判決17頁3行目の「本件契約等」を「右各売買契約書」と改める。
4 原判決24頁1行目の「7億8614万3120」を「7億8614万3120円」と改め,同11行目の「時価を」の次に「1坪当たり」を加える。
5 原判決25頁3行目の次に行を改めて
「(三)仮に本件譲渡土地及び本件購入土地に係る各売買契約が当事者の真意によるもので,当事者が各売買契約で定められた代金を支払う意思を有していたと認められるとしても,
本件取引は,各当事者が負担する給付全体が対価関係に立つものであり,被控訴人らにおける本件譲渡土地及び3億9614万3120円の給付,
《A》不動産販売における本件購入土地及び5億8000万円の給付をそれぞれ対価的給付とする不可分一体の契約であり,
売買契約と売買契約とが不可分一体となった補足金付交換契約類似の無名契約と解すべきであるから,課税額は,補足金付交換契約の場合と同様に算定すべきである。」

を加え,同4行目の「(三)」を「(四)」と改める。
6 原判決28頁10行目の「本件購入士地」を「本件購入土地」と改める。
7 原判決29頁9行目の「《B》不動産」を「《A》不動産販売」と改める。
8 原判決30頁1行目の「《B》不動産」を「《A》不動産販売」と改める。
第3 証拠
 本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,これをここに引用する。

       理   由

1 当裁判所も,被控訴人の本件請求は理由があるものと判断する。その理由は,次のとおり訂正し,付加し,又は削除するほかは,原判決の「第三 判断」に記載のとおりであるから,これをここに引用する。
(1)原判決33頁9行目の「締結した」を「取り交わした」と,同11行目の「《B》不動産」を「《A》不動産販売」とそれぞれ改める。
(2)原判決34頁11行目の「締結し」を「取り交わし」と改める。
(3)原判決36頁7行目の「乙11」を「乙11の7」と改める。
(4)原判決38頁1行目の「《B》不動産」を「《A》不動産販売」と改める。
(5)原判決39頁7行目及び同10行目の各「本件底地」をいずれも「本件購入土地の底地」と改め,同9行目から同10行目にかけての「持分のうちの」を削る。
(6)原判決40頁2行目の「本件底地」を「本件購入土地の底地」と,同10行目の「売買契約」を「本件譲渡契約」とそれぞれ改める。
(7)原判決43頁2行目の「」」の次に「(本件覚書)」を加え,同3行目の「3億9614万3210円」を「3億9614万3120円」と改める。
(8)原判決44頁4行目から同57頁3行目までを次のとおり改める。
「二 ところで,所得税法33条1項にいう譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその所得者に帰属することとなった増加益を当該資産が譲渡される機会をとらえて所得として把握しようとするものであり,
当該資産の譲渡の原因である私法上の取引行為等が存在することを前提とするものであるところ,このうち私法上の取引行為は,私的自治の原則上,取引行為の内容,契約類型の選択等につき,
それが公序良俗に反していたり,不当な目的を実現するために濫用されるものでない限り,当事者の自由な意思にゆだねられているものである。したがって,譲渡所得に対する課税は,原則として,当事者の自由な意思によって成立した契約内容,
契約類型等を前提として,これに即して行われるべきものであり,租税法律主義の下においては,当事者の合意内容や当事者の選択した契約類型を他の契約類型に引き直して,これを前提として課税することは,特に法律の根拠がない限り許されないものというべきである。
ただし,当事者によって用いられた契約文言や契約類型が不当に課税を回避すること等を目的としてされた,当事者の真の意図を隠蔽する仮装のものである場合には,当事者の真の意図による取引が存在するものとして扱われるべきことは,意思表示の合理的解釈の見地からも,また実質課税の原則からも,当然のことである。
三 以上のことを前提として,まず,本件各契約が各別の売買契約であるか1個の補足金付交換契約又は補足金付交換契約類似の無名契約であるとみるべきかにつき判断する。
 前記争いのない事実のとおり,本件譲渡土地については被控訴人らと《A》不動産販売及び《C》との間で本件譲渡契約が,本件購入土地については被控訴人らと《A》不動産販売との間で本件購入契約がそれぞれ締結されている。そして,前記認定事実のとおり,
当初,被控訴人らと《C》とは,本件譲渡土地と本件購入土地を交換することを合意していたものであるが,被控訴人らが本件購入土地上の借地人らと直接取引することが困難であったことから,《A》不動産販売が契約当事者とならざるを得なくなり,
《A》不動産販売が本件購入土地の底地権及び借地権付き建物を取得した上で,被控訴人らに本件購入土地を譲渡することになったものであり,したがって,被控訴人らと《C》の当初の合意に基づき本件譲渡土地と本件購入土地の譲渡を交換という法形式で行うことはそもそも不可能になったことが認められる。
そして,このような経緯に照らせば,本件譲渡土地と本件購入土地の譲渡につき,被控訴人ら,《A》不動産販売及び《C》がそれぞれ別個の売買契約を締結したことは,むしろ自然なことというべきであり,これをもって社会通念上不合理なものあるいは租税負担を不当に回避することを企図した濫用目的に出たものであるとはいい難い。
 また,被控訴人ら,《A》不動産販売及び《C》が本件譲渡土地及び本件購入土地の譲渡を本件各契約の締結及び各売買代金の相殺という法形式を選択して行った取引を,補足金付交換契約又は補足金付交換契約類似の無名契約という法形式に引き直して,これに対応した課税処分を行うことを認める規定も存在しない。
 さらに,本件事実関係の下においては,被控訴人らの真の意図するところは交換契約であって,本件各契約の締結が被控訴人らの真の意図を隠蔽するための仮装のものであると認めることは,到底できない。
 控訴人は,《A》不動産販売が本件購入土地の売買により発生した売却損につき寄付金処理をしておらず,本件譲渡土地の低額譲受けにより発生した受贈益を益金の額に算入する会計処理をしていないことをもって,本件各契約を2個の売買契約であると解することは被控訴人らの意思に反している旨主張するが,
《A》不動産販売において,控訴人の主張するような会計処理をする必要があるかどうかはともかく,仮にその必要があるとしても,本件各契約の一方当事者である《A》不動産販売が内部的に上記会計処理を行っていないことをもって,
他方当事者である被控訴人らの意思もそのような会計処理を必要としない法形式を採用するものであると解することは直ちにはできないというべきである。
 したがって,本件取引は,被控訴人らが,《A》不動産販売及び《C》に対して本件譲渡土地を代金5億8000万円で売却するとともに,《A》不動産販売から本件購入土地を代金3億9614万3120円で購入したものというべきであり,課税は,これを前提として行われるべきである。」
(9)原判決57頁4行目の「三」を「四」と,同6行目の「二」を「三」とそれぞれ改める。
(10)原判決58頁2行目の「誤りである」から同60頁6行目までを「誤りであり,譲渡所得課税の趣旨からすれば,譲渡所得課税において総収入金額に算入される対価は,資産の値上がりによる増加益の具体化と認められる限り,当該資産の譲渡に基因しそれと因果関係のある利益を含むものである旨主張する。
 しかし,譲渡所得とは,資産の譲渡による所得をいうものであり(所得税法33条1項),譲渡所得の金額は,当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費等を控除して算出することとされており(同条3項),総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,
その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とされているところ(同法36条1項),資産の譲渡が売買契約によって行われた場合には,当該取引によって収入されるものは売買代金にほかならないから,
契約上の売買代金額をもって収入すべき金額と解するほかないというべきである。そして,総収入金額に算入すべき金額は,資産の譲渡との間に必ずしも法律上の対価関係が存在していることまで要しないが,実質的に資産の譲渡の対価と認められることが必要であると解すべきである。
資産の譲渡との間に単に因果関係があれば課税の対象となると解することは,課税の対象の範囲が余りにも不明確となって租税法律主義に反するおそれがあり,相当ではないというべきである。
 控訴人は,本件譲渡契約上の売買代金額が客観的交換価値よりも低額であり,これによって,税額が売買代金が客観的交換価値相当額であった場合よりも低額となっていることが問題であるとしているようである。しかし,所得税法は,同法59条1項2号において,
法人に対する著しく低い価額での譲渡について時価による譲渡があったものとみなして課税を行うこととしているほかには,資産の譲渡の対価が客観的交換価値に比して低額である場合について特段の定めを置いていないのであるから,同法は,法人に対する資産の譲渡であってそれが著しく低い価額による譲渡に当たる場合のほかは,
資産の譲渡の対価が客観的交換価値よりも低額であるとしても,税負担がこのような対価の定め方によって軽減されることを容認しているものと解さざるを得ない。そして,控訴人は,本件譲渡契約の売買代金額が同法59条1項2号にいう「著しく低い価額」であるとの主張はしていない。」と改める。
(11)原判決60頁8行目の「四」を「五」と改める。
(12)原判決61頁2行目の「五」を「六」と改める。
2 よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成13年9月10日)
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官 石井健吾
裁判官 大橋弘
裁判官 植垣勝裕


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