平成16年度所得税等税制改正のポイント

 本年度の税制改正は、デフレ不況からの脱却を第一の課題としつつ、構造改革を中長期的には着実に実行するため行われました。次に所得税等の改正のうち主なものについて紹介します。

1 住宅・土地税制

☆住宅ローン控除制度の段階的縮小と存続

 従来の制度を十六年中の居住分についてはそのまま維持し、その後平成二十年までの居住年分については、住宅借入金等の年末残高の上限(改正前五千万円)を段階的に引き下げ、さらに10年間の控除期間中に控除率の1%が適用できる期間を段階的に短縮することとしています。(図表1)これは、超大型減税の全廃が住宅取得抑制に向かう悪影響を避け、デフレ回復を期待して段階的に縮小するというソフトランディングが狙いです。この結果、最終平成20年の居住年分の控除額は10年間で最大160万円となり、平成16年の居住年分の最大500万円からは、大幅な減税の縮小が行われることになります。

☆ 土地建物等の譲渡損失に関する改正

@土地建物等の譲渡損失について損益通算・繰越控除は原則廃止

 従来、土地建物等を譲渡し損失が発生した場合には、そのうち別荘等の生活に通常必要でない財産の譲渡損失以外は、その年度の他の所得との損益通算が原則可能でした。また、青色申告の場合、その通算後の損失残高を翌年度以降3年間繰り越すことが原則可能でした。これらの制度が原則廃止されることで、例えばバブル期に事業用資産である土地建物等を購入し、16年度以降に売却し損失が発生しても、その損失は税金の計算上永遠に回収することは出来なくなります。
 なお、株式等のように簡単にはゆきませんが、この譲渡損失は同じ土地建物等の譲渡所得とは通算できますので、含み損のあるものを譲渡する場合、他の土地建物等の売却により譲渡益の発生する年度においてのみ通算が可能となります。

A居住用財産を買換えた場合の特例の要件緩和・適用期限の延長

 改正前の「特定の居住用財産を買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」の特例では、住宅ローン等の残っているマイホームを売却し、再び住宅ローン等でマイホームを買換えた場合に限って、売却したマイホームの損益通算後の譲渡損失を3年間繰越控除できる制度となっていました。
 本年度の改正では、売却をしたマイホームに関しては住宅ローン等の残高の有無にかかわらず(ローンで取得しなかった場合も同様です。)買換えの取得に際し住宅ローン等で購入すれば、@の原則廃止の例外として譲渡したマイホームの譲渡損失は損益通算ができ、さらに通算後の損失は翌年以降に繰越しできることとされました。

B「特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除等」の特例創設

 Aの制度では、改正後も居住用財産を買換えなければ譲渡損失の損益通算及び繰越控除(繰越控除等)が適用できないこととされていますが、この制度では住宅ローン等で取得した特定のマイホームの譲渡損失のうち、一定の損失については、新しくマイホームを買い換えなくても、A同様に繰越控除等が適用できるところに特徴があります。(図表2
ただし、繰越控除等が可能な損失は、住宅ローン残高等からマイホームの譲渡対価の額を控除した残額に限られ、キャッシュフローで考えると譲渡による収入金額がすべて住宅ローン等の返済に充てられるケースを想定しています。(図表3

☆ 土地建物等の長期譲渡所得の課税の特例に関する改正

@税率の引き下げ・100万円特別控除の廃止

 税率は平成16年度分の譲渡から改正前の26%(うち住民税率6%)が20%(うち住民税率5%)に引き下げられ一般の特別控除100万円が平成16年分以後の所得税について(住民税は平成17年分以後)廃止されました。

A優良宅地の造成等のための土地等の譲渡に関する税率の引き下げ・他の特例との併用廃止

 この制度については、平成16年度の譲渡から税率が軽減されます。ただし、収用交換等により代替資産を取得した場合の課税の特例・特別控除の特例等との併用が認められなくなりました。

☆ 土地建物等の短期譲渡所得の課税の特例に関する改正

 この特例については、税率は従来の52%(うち住民税率12%)が39%(うち住民税率9%)に引き下げられました。また、全額総合課税をした場合の上積税額の110%との比較は必要なくなり、一本化されました。なお、国等に対する譲渡についても、同様に20%(うち住民税率5%)に引き下げられ一本化されています。この改正は平成16年度からの適用になります。

2 中小企業関連税制等

☆ 非上場株等の譲渡税率の引き下げ

 上場株式等以外の株式等を譲渡した場合に、従来26%(うち住民税率6%)の税率が適用されていましたが、今回の改正で20%(うち住民税率5%)に引き下げられました。この改正は平成十六年度からの適用になります。

☆ エンジェル税制の拡充

 適用対象となる特定中小会社の範囲に、将来性のある未上場企業及び登録の認められた「グリーンシート・エマージング銘柄」や「一定のベンチャーファンドを通じて投資される会社」が追加されました。この改正により、証券会社や投資ファンドのいわゆる目利きを通じた資金提供の強化が期待されます。

3 年金税制

☆ 公的年金等控除の縮減等及び老年者控除の廃止

 公的年金等控除のうち、65歳以上の者に対して上乗せされている措置が廃止され、これに加えて老年者控除が廃止されました。また、これらに代えて公的年金等控除の最低保証額(老年者特別加算)に50万円が加算され120万円とされました。新しい公的年金等控除額の速算表は図表4のようになります。
 一度比較計算してみてください。ただし、改正前の合計所得金額1000万円以下の人については、ほかに50万円の老年者控除があったことをお忘れなく。この改正は、平成17年度の所得税(平成18年度住民税)から適用されます。

4 その他

 これらのほか、@特定の事業用資産の買換えの場合等の特例のうち、長期所有の土地、建物等から国内の土地、建物、機械装置等への買換え特例制度3年間延長、A公募株式投資信託の譲渡益課税優遇税率(10%)及び特定口座の適用、B確定拠出年金に係る拠出限度額の引き上げなどが今回の改正事項となっています。

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