コンピュータネットワークの基礎知識(その1)

これから数回にわたってネットワークのお勉強をしましょう!
今回はコンピュータネットワークの誕生から利用形態までの内容です。

1.コンピュータネットワークの誕生
2.コンピュータネットワークの利用形態

1.コンピュータネットワークの誕生

コンピュータネットワークとは、コンピュータと通信回線を組み合わせた 通信網のことです。現在のようにLANやインターネット、携帯電話ネットワークが 発展してきたのは、ごく最近のことです。

初期のコンピュータネットワークは、大型コンピュータを利用し、 それをユーザで共有して使用していました。しかしパソコンなどの小型で安価な コンピュータが普及するようになると、複数のコンピュータに機能を割り振って 必要に応じてそれらを使い分ける新しいネットワークの形態が発展してきました。
まずは、コンピュータネットワークの歴史と、利用形態の移り変わりを見ていきましょう。

(1)コンピュータネットワークの誕生

1台の大型コンピュータをみんなで使用した時代

コンピュータの利用形態という視点から歴史をながめると2つの流れがあることがわかります。ひとつは大型コンピュータを利用して集中処理を行う形態、もうひとつはパソコンなどの小型コンピュータに接続して利用する分散処理という形態です。

初期のコンピュータは非常に高価でしたので、“コンピュータ”という貴重な資源をムダにせず、効率よく使用するには、複数の人間で共有し、利用するのがいちばんよい方法です。
大型コンピュータの利用形態には、次のようなものがあります。

@ バッチ処理/リモートバッチ処理

バッチ処理とは、処理する必要のあるデータが一定量たまるのを待ち、 まとめて「一括処理」する方式です。

企業の業務処理にコンピュータが用い始められたころは、コンピュータは 限られた場所にしかありませんでした。通常は「計算機センター」という 特別な施設にあったため、そこまでデータを運び、 処理を依頼する必要がありました。いちいちデータを運んでいるのでは 効率が悪いため、データがある程度たまるのを待ち、まとめて運んで 一括処理するようにしていました。
バッチ処理の欠点はデータをコンピュータのある場所まで運ぶ手間がかかること、 また、データをコンピュータで打ち直さないといけないことです。

リモートバッチ処理は、バッチ処理と同じようにデータを一括して 処理する方式です。異なる点はデータをコンピュータに送るときに 通信回線を使用することです。このシステムはコンピュータを通信回線に 接続するシステムのさきがけでした。

A オンラインリアルタイム処理/TSS

リアルタイム処理は、日本語にすると「即時処理方式」という意味です。 バッチ処理のような一括処理方式とは異なり、コンピュータと人間が会話形式で やりとりしながら処理を進めます。故に対話型処理とも呼ばれます。 入力した情報に対して、すぐにその場でコンピュータが応答するのが特徴です。 列車の予約システムや銀行のATMシステムなどは現在でもこの方式が使われています。

1960年代にはタイムシェアリングシステム(TSS)という処理方式が 登場してきました。TSSは、1台の大型コンピュータに複数の端末を接続する方式です。 このしくみによって、複数のユーザが同時にコンピュータを利用できるようになりました。 複数の端末から送られてきた要求を大型コンピュータがごく短い時間で 切り替えながら処理します。

コンピュータを分散して使う時代へ

@コンピュータを分散して使用する目的

1957年、ソ連は世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げました。 アメリカはこの出来事に大きなショックを受けました。 人工衛星から核兵器で攻撃され、大型コンピュータが攻撃を受けた場合、 恐ろしいことになるでしょう。従来の大型コンピュータを軸としたシステムの場合、 攻撃を受けて破壊されればシステム全体がストップしてしまいます。 アメリカはこのとき、大型コンピュータによる集中管理がいかにリスクが高いかに 気づいたのでした。
「核兵器からいかにコンピュータを守るか」という問題意識に基づき、 アメリカ国防省が生み出したのが、インターネットの起源といわれる ARPANETです。ARPANETは、分散処理という考え方に基づく コンピュータネットワークです。

1.リスク分散

1台のコンピュータが停止しても、ほかのコンピュータがそのかわりをして補える。

2.負担分散

ひとつのコンピュータに処理要求が集中しないように、処理要求を分散する。

3.機能分散

コンピュータが提供するサービスを、複数の機能に分け、複数台のコンピュータに振り割る。

集中管理方式に比べると、分散処理は非常事態に機動的に対処できることがわかります。 コンピュータネットワークは、次第に集中処理から分散処理へと移行していきました。

A分散処理ではパケット交換の方が都合がよい

コンピュータが分散処理に対応しても、通信回線にトラブルが発生して、 通信できなくなってしまえば、システムとして意味をなしません。 そこで通信回線の信頼性を向上させ、かつ効率よく利用するために考え出されたのが パケット交換という技術です。
パケット交換が登場する前の通信は、電話と同じで、すべて交換局を通すことが 前提でした。しかし、交換局が故障すればすべての通信ができなってしまいます。 また、交換回線では、誰かが通信を行っていると、他の人は利用できないという デメリットもありました。


パケット交換前の通信

パケット交換を利用すれば、通信システムの一部に問題が起きても、 それを迂回して通信ができます。障害などが原因で通信システムが ストップするようなことはなくなります。
また、複数のユーザで同時に一つの回線を 共有できるため、結果として回線の利用効率が上がるというメリットがあります。
このため、パケット通信が注目されるようになったのです。 パケット交換方式は、パケット(packet)と呼ばれる単位に分割して、 データを転送します。


パケット交換

B ARPANETから発展したインターネット

ARPANETは、次第にネットワーク規模を拡大し、大学や研究機関などのネットワークとも 相互接続するようになっていきました。しかし、相互接続に乗り出した問題が起こりました。 それは、仕様の異なるネットワークと簡単に接続するには、どうしたらよいかということです。

各大学や研究室機関は、独自に大型コンピュータによるネットワークを構築していましたので、 それぞれ通信に関する約束事が異なっていました。約束事の事を通信の世界ではプロトコル (protocol)と呼んでします。それぞれのネットワークで異なるプロトコルを使っている場合、 相互接続するときは、両者で通用するプロトコルを新たに考えださなければなりません。 これでは、たいへんな労力がかかってしまいます。

そこで通信時の標準となるプロトコルが策定されました。 それが、TCP(Transmission Control Protocol)と呼ばれるプロトコルです。 その後、TCPはTCPとIP(Internet Protocol)という2つのプロトコルに分離し、 現在普及しているTCP/IPというプロトコルへ発展をとげたのです。 このTCP/IPによって、世界中のコンピュータネットワークが容易に 接続できるようになりました。このTCP/IPの技術がデファクトスタンダード (事実上の標準)となっています。

2. コンピュータネットワークの利用形態

“コンピュータネットワーク”といっても、その形態はさまざまです。 ここでは、現在広く利用されているコンピュータネットワークと、 その利用形態についてみていきましょう。

LAN(Local Area Network)

LANは、日本語では「構内伝送網」と呼ばれます。 地理的に狭い範囲のネットワークの事を言います。同一建物内や同一敷地内において、 コンピュータや端末、周辺機器を高速な回線で接続し、自由なデータ通信を実現します。 もともとは、パソコンなどの端末同士を接続し、ファイルやプリンタの共有を 行うものでした。
現在のLANでは、イーサネットと呼ばれる方式が最も普及しています。

WAN(Wide Area Network)

WANは、日本語では「広域伝送網」と呼ばれます。電話回線やISDN、 専用線を利用して、外部のコンピュータネットワーク同士を接続します。 主に離れた拠点間のLANを相互に結びつけるために利用されます。 企業を例にとると、支店や事業所などはなれた場所にあるLANとLANを 接続する用途に用いられることが多いです。

インターネット(Internet)

コンピュータネットワークをほとんど世界中どこからでも接続できるようにしたのが、 インターネットです。「インターネット」とは“ネットワークの交差点” という意味になります。もともとは軍事目的のために構築されたネットワークでしたが、 学術目的や商用目的へとその範囲を広げ、現在では世界中にネットワークを 開放しています。そのため、急速に普及し、いまでは一般の人々にも利用されています。

ISP(Internet Services Provider)

ISPは、「インターネット接続業者」のことです。 電話回線やISDN回線データ通信専用回線などを通じて、顧客である企業や家庭の コンピュータに接続するのが主な業務です。付加サービスとしてメールアドレスを 貸し出したり、ホームページ開設用のディスクスペースを貸し出したり、 オリジナルコンテンツを提供したりしている業者もあります。

集中処理と分散処理

もういちど、集中処理と分散処理について復習しておきましょう。

集中処理は、処理を一手に引き受けるホストコンピュータと、 それを操作する端末機器で構成されます。データはホストコンピュータで 一括して記憶しているため、管理ばかりでなく保守が容易なのが特徴です。 但し、ホストコンピュータが故障すると、システム全体の故障につながるのが欠点です。


集中処理

一方、分散処理とは、ネットワークで接続したコンピュータが連携をとりながら 処理を分担して実行します。この方式は、1台が故障しても他で処理を代わりに行えるため、 全体としての稼働率を高められるのが特徴です。一方、データも分散して記憶されるため、 同じデータが複数のコンピュータで記憶される場合に、一方は更新されても、 他方は未更新といった不整合が生じる可能性があります。 また、データが分散して保存されるので、一括管理にくらべてセキュリティも 低くなりやすいといえます。


分散処理

クライアント/サーバシステム

コンピュータネットワークは、大型コンピュータからワークステーションや パソコンといったいった小型コンピュータへと移行が進み、その業態も 集中処理から分散処理へとシフトしていきました。

分散処理の考え方を応用したシステムの方式にクライアント/サーバシステムがあります。 この方式は、コンピュータの役割をサーバ(sever)と クライアント(client)に 分けて処理を考えます。
日本語でいうと、サーバは「サービス提供者」、クライアントは「顧客」となります。 その名のとおり、要求に応じてサービスを提供するコンピュータをサーバ、 サーバに対してさまざまな要求を送るコンピュータをクライアントと呼びます。

クライアント/サーバシステムにはどのようなものがあるでしょう。 たとえば、インターネットで使われているサーバとして代表的なものに、 メールサーバWWWサーバ(Webサーバ)などがあります。 メールサーバは、クライアントからのメールを転送したり、 メールを受信するといったサービスを提供します。また、WWWサーバは、 ホームページのデータの提供/蓄積を行います。 クライアントがこれらのサーバに要求を送ると、サーバはそれに応じ、 必要な処理を行います。

集中処理から分散処理にシステムが移行することで、ユーザは必要な情報を 必要な時に取り出し、自由に加工したり分析したりできるようになりました。

クライアント/サーバシステム

ピアツーピア

クライアント/サーバシステムとは違い、コンピュータ間に“サービスの提供者と顧客”と いった固定した関係のないコンピュータネットワークをピアツーピア(Pear to Pear)と呼びます。つまり、すべてのコンピュータがサーバとしても クライアントとしても機能します。これをピア(Pear)と呼んでいます。
専用のサーバ機を必要としないため、費用も安価にすみますので、 小規模なLANでファイルやプリンタを接続するのに使用されます。

ピアツーピア



今回はここまでです。次回は「インターネットやインターネットのサービス」に ついて勉強しましょう!

(参考文献:『速習 TCP/IP』、著者 三浦一志、発行所 ソフトバンク パブリッシング株式会社)