判例 贈与税
贈与税基礎控除額(判例時60万円、現行110万円)以下で贈与された預金はどうなる?
(参考:名古屋地方裁判所 平成2年3月30日 判決)
【事件の概要】
被相続人 : 父親 昭和58年11月死亡
相続人
: 娘
同 : 息子
父親は、昭和50年から昭和57年までの間、娘・息子の名義で定期預金口座を作り、毎年贈与税の
基礎控除額(60万円)以下で預け入れていた。父親の死亡により相続税の申告を行うに際し、娘、息子
ら相続人は、この定期預金を父親との贈与契約に基づき預け入れられた預金であるとし、相続財産
として申告しなかった。これに対して税務署は、定期預金も相続財産にあたるとして処分を行った。
これを不服として娘、息子が裁判をおこしました。
【裁判の争点】
相続人の娘・息子名義の定期預金は、被相続人の父親の財産となるのか。
【娘・息子の主張】
娘・息子は、昭和50年頃、父親からA銀行にそれぞれの名義で定期預金を積み立てる
事で現金を贈与する旨の申し込みがありこれを了承した。
この定期預金は贈与契約の履行の結果、娘・息子の固有の財産で父親の財産には含まれない。
【税務署の主張】
これらの定期預金は、すべて父親の普通預金から振替出金により預け入れられたものであり
定期預金の管理・運営、銀行に対する手続き、関係証書・通帳・印鑑の保管も一切、父親が
行っていた。これらに関し、娘・息子らは定期預金に関して父親に指示したことは一切ない。
また、娘の婚姻後も預金名義は旧姓のままである。 したがって、これらの定期預金は父親の
財産である。
【裁判所の判断】
税務署側の主張を認めています。
通帳は父親が自宅内に保管し、同じ姓の銀行印を用いて、娘の婚姻後も旧姓のまま使用し、住所も
変更していなかった。また、相続人らは贈与契約の履行後に初めて贈与があったことを知った旨の
供述をしている。以上のことから、父親が相続税課税回避のために娘・息子の名義を使用して定期
預金を積み立てたのであり、その管理、運営、払い戻しを父親が行っていたものである。娘・息子は
定期預金の管理、運営、払い戻し、使用に関与する事はなかった。本件の場合、この定期預金は
父親の財産であって、娘・息子の財産ではないと判示しています。
いかがでしたか。
結局のところ、贈与税申告をしてはいませんでしたが、基礎控除額(非課税枠)以下での贈与契約
なのでそのこと自体についての問題はありませんが、贈与されたはずの定期預金が娘・息子の管理下
になかったことが判決のポイントになりました。
この非課税枠を利用した贈与契約はよくあることですが、贈与した財産の管理も受贈者(もらった側)
に移っていること、また申告するだけの贈与ではなく、実際に財産を贈与することです。(これが結構
やっていないことがあるんですよ)。
実務上は少しだけ税金を払ってでも申告書を提出するほうが後々相続の時等に有利になることが
多いようです。
以下、非課税限度額を使用した現金贈与のポイントをあげてみました。
@実際に財産を贈与する。(日付・金額・振込人が記載される通帳等を利用するとGood)
A贈与された財産の管理者が受贈者(もらった人)本人であること。
B贈与税申告書を提出する。
例えば、111万円の現金贈与をしたとすると
111万円−110万円(贈与税基礎控除額)=1万円
1万円×10%(税率)=1000円(納める贈与税)
となります。
贈与財産、形態は色々ありますので、それに合わせて贈与の申告も変化します。
やはり税金のプロ、税理士にご相談下さい。
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by Z